種死考

主題性は言うまでも無く重要である。
それは明確に言葉で表されていなくても、
製作者は明確に意識していなければならない。
それは物語を通じて示されるものもあれば、
物語によって解き明かされるものもある。
主題は物語を媒介として掲示される以上、
物語と不可分な関係にある。
したがって、主題は物語を読む事で解き明かされるべきであるし、
主題は物語を通して語られるべきである。


そういう意味において、『機動戦士ガンダムSEED』と
その続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』は、
主題だけが高尚であった*1と言える。
当初、あれが掲示した問題と言うのは、
少年少女向けの作品にしては、
なかなか深刻な問題であったと思う。


「人は何処まで行けるのか」

「進歩(進化)は良い事なのか」

「平和と反戦、それ自体を守るための戦いという相克と矛盾」

「何故戦うのか」

「何かのために何かを犠牲にする事」

「国家の正義と個人の正義」


こういった定立を出したのまでは良かった。
たとえ物語が旧作の模倣であっても。
問題はそれに何一つとして
誠実な解を与えず終わらせてしまった事にある。
それゆえに何が言いたかったのか
まったく理解に苦しむ作品となってしまった。
この作品にはスタイルが無いのだ。
この作品の全てにおいてあるのはポーズであり、
それ故に登場人物達は生き方を持っていない。
言わば、原石だけを磨かずにそのまま、
あるいは多種多様な原石と屑石を混交して、
撒き散らしたような作品であった。
受け手としても、鰻とステーキとマグロを一緒に食うような
何を食っているか分からないような困惑を強いられた。*2


ところで、最近触れた思索で面白かったものがある。
それは漫画の評論なのだが、
キャラクターに注目しながら、
「キャラ萌え」などの記号性に向かない
ユニークな捉え方をしていた。
キャラクターに着目して読み解くということを
私はあまりしないので、
そのことの新鮮さもあったが、
そこにさらに「動機」と「目的」を
もってきたのがさらに興味深いものであった。


「動機」や「目的」は、
物語の観点から捉えられる事が
多いように思われる。
つまり、プロットや構造を重視する見方だが、
一方で今回の論では、
キャラクターとその内面性*3に重点が置かれ、
物語そのものよりもテーマ性に意義を見出そうとする。
多少、厳密性に欠く*4が、
面白い意見ではある。


その視座を少々拝借してみる。
だが、やはりそれでもあの作品を
擁護することは不可能であろう。
物語もさることながら、
登場人物たちも思想の断片の継ぎ接ぎのような内面を持つ、
歪な*5存在であった。
苦悩はすれども解を出さないまま、
忘却に捨て去り、ただ勝利する。
これに何の意味を、思想を見出せようか。


悩みながらも考えない主人公達の事は置いておこう。
私が視聴中幾許かの期待を寄せた
キャラクターについて語ろう。
二人のクローンがいる。
前者は絶望にかられ、
後者は希望にすがりついた。
前者はクローンのオリジナル、
父にして、自分でもある存在を殺した。
だが、その心理は結局描かれなかった。
後者には父がいた。
たとえそれが偽りの父であっても、
彼は希望を見失わなかった。
脚本家は最終話で彼から希望を奪った。
いや、いきなり絶望へと放り投げた。
二人は対を表すものですらなかったのだろうか。
これは無能さ以上に罪深い。
あまりに品格が無いからだ。
あの最後から、この作品に水戸黄門的な演出はあっても、
物語や思想*6は無いのだと私は覚った。


テーマや思想を重苦しく捉える事はない。
単純な事もまたテーマであり思想と称しうる。
漫画誌の『少年ジャンプ』の掲載作品とて、
友情、努力などの思想やテーマがあると言える。
思想それ自体は別に高尚でもなんでもない。
単に思索や考える事(Thinking)があって、
思索され、考えられた事(Thought)、
つまり、思想があるのに過ぎない。
思想やテーマというのは
シールのように幾つも貼り付けられうるものではなく、
作り手や考えた人のある種の思考の様式に過ぎない。
それが思想であり、テーマ性やスタイルと呼ばれる物だ。
100話も作ってそれがまったく無いという事も、
ある意味、奇跡のように思える。


内面を持たない駒としてのキャラクター、
演出だけのための物語、
空虚な問と偽りすらしない解……
『少年ジャンプ』の掲載作が往々にして
あらゆるものがバトル漫画へと変わってしまうように、
ガンダムもまた意味も目的も理由も無い
ただ戦いだけの作品となってしまったのだろうか。
いや、むしろ、意味深な問いだけを提出した分、
その空虚さから、その法螺から、その不誠実さから!
さらに、より、もっと、罪は深い。

*1:これすら今となっては空虚だ。

*2:実に不毛であった。100回やって解が1つも無いのだから。

*3:思想なども含む

*4:重複の可能性、危険性

*5:歪な内面ではない。ただ歪なのだ。

*6:内面、テーマ