2006年米アカデミー賞の感想

少々古い話題だが、
今年度のアカデミー賞について振り返る。
今年のアカデミー賞は例年に無く、
社会派の硬派な映画が多数ノミネート、受賞されていた。


作品賞の「クラッシュ」は、
いまだ米国において深刻な人種問題を。


ジョージ・クルーニー助演男優賞獲得した
シリアナ」(社会派ではなくエンターテイメントだが)は
資源獲得戦争、特に石油産業の舞台裏を。


監督賞の「ブロークバック・マウンテン」は
同性愛をテーマにしている。


受賞こそ逃したが、
スピルバーグの「ミュンヘン」は
復讐と報復の連鎖、
イスラエル(ユダヤ)とパレスティナの問題を描いた。


今回のアカデミー賞において、
前哨戦と言われるゴールデン・グローブ賞を総なめにした
ブロークバック・マウンテン」は
惜しくも作品賞を逃したが、
米国の男らしさのシンボルでもある
カウボーイ同士の愛を描いた挑戦的な映画である事を考慮すれば、
監督賞受賞しただけでも奇蹟と言える。
もっとも、ハリウッドは米国の中では
比較的リベラルであるから、
バランス的にもこれが最良だったかもしれない。


重苦しい「ミュンヘン」は無冠であったが、
これは米国の事情があるかもしれない。
と言うのは、米国人はほとんど
外の事に関心を持たない人々であるからだ。
外国語の習得に最も無関心な国の一つとも言われている。
だからこその「クラッシュ」でったかもしれない。
昨年のハリケーンカトリーナ
その災害が表出させた人種問題は、
もはや解決不可能な様相を見せている。
それでも、その深刻さに目を逸らさないために
この作品は寄与するだろう。


ミュンヘン」にはイスラエルから批判が出ていたが、
この作品が描いていたイスラエルにおける問題、
すなわちパレスティナ問題は、
人種問題と同じく解決不能に思える。
特にシャロン首相が倒れた事が
この情勢をさらに悪化させた。


彼はイスラエル自治領とを隔てる壁の
建設を推進していた人物だ。
あれは確かに道義的にも国際法的にも
悪しき行為である。
だが、私はあれに反対はしない。
というのも、私には、
イスラエルパレスチナ人を
皆殺しにするのではないかという懸念があるからだ。
あの負の連鎖を止めるのは、
相互の和解ではなく、
いずれかの破滅によるだろう。


ある民族がある民族を皆殺しにする事は、
歴史的に珍しい事ではない。
近年でも、「民族浄化」の事例や、
悪名高き「ホロコースト」の事例がある。


古い事例でも、
イギリスの「ノルマン・コンクェスト」は、
実に血なまぐさいものであった。
アングロサクソン年代記』によると、
先住のサクソン人貴族はわずか数名を残して
皆殺しにされたという。


カリブ海諸国の島々は、
今日、褐色の肌をした人々が暮らしているが、
あれもまた先住民族の全滅の結果であった。


歴史は暗い未来を予言しているかのようだ。
それゆえに私は恐れている。
イスラエル政局の混乱が
中東情勢のさらなる破局を招くのではないかと。


そう危惧する私は、
シャロン首相を支持していた。
彼が元軍人であり、
かつてのベイルートでの事件が暗い影を落としているのは事実だ。
だが、ガザ地区から撤退し、
かつての強硬派とは一線を画していた。
彼はイスラエルにおけるアイゼンハウアーであった。
彼が病に倒れた事を無邪気に喜んだ人物がいたが、
私は心から残念に思う。
私はアラファトよりも彼が好きだった。