批評

「パッチギ!」(04年/日本)

この映画に対する評価は難しい。 いくつかの欠点と事実と異なる描写が含まれているためだ。 それはまず「イムジン河」が発禁されたというくだりである。 「イムジン河」が販売自粛及び廃盤になったのは 朝鮮総連の抗議によるところが大きい。 最後の方の場面…

田中明彦『新しい中世』

先日行われたフランス大統領選挙は大方の予想通り、 右派で元内相のサルコジ氏が当選し組閣も無事行われた。 冷戦が終わってもう随分と経つが、 ようやく冷戦後の世界の在り方というものが見えて来つつあるのではないか。 ある種の固定観念を取り払って素直…

福田恒存 D・H・ロレンス『黙示録論』

我輩はこの頃一つの命題に引きつけられている。 それは「誠実」という名の呪縛についてだ。 今日のネットの正義漢をなどもそうだが、 彼らは誠実さに突き動かされ、 他者を誠実さで突き立てるのだ。 ところが彼ら自身その誠実さの奴隷となっている事に気が付…

宮台真司「試される憲法」

以前、我輩は所説の疑問としてエントリにまとめたが、 今回は明瞭に批判である事を明記しておきたい。 昨今の彼の言動は目にあまるからである。 しかも、性質の悪い事にそれを支持している人も少なくないようだ。 「迷信の時代は、知っている以上のことを 知…

NHKスペシャル「日本国憲法 誕生」

なかなか良く出来たドキュメンタリー作品であった。 何だかんだ言っても見れる水準のドキュメンタリーを 作れるのもNHKぐらいなのであろう。 この「日本国憲法 誕生」はおそらく 教育テレビの方で今年の2月10日に放送していた ETV特集「焼け跡から…

東京都美術館「オルセー美術館展」

東京都美術館でオルセーの企画展があるというので行って来た。 国立西洋美術館と比べると少々手狭で 分かり難いところにある東京都美術館であるが、 昼時前だと言うのに多くの客が詰め掛けていて辟易させられた。 日本では何故か印象派の絵画は受けが良い。 …

宮台真司氏の所説の疑問:補遺

宮台真司説にせよ、丸山真男説にせよ、 「亜インテリ論」は妥当かと問われれば、 我輩は“否”と答えざるを得ない。 そもそもインテリゲンツィア、知識階級と呼ばれるものすら、 抽象過ぎてその実体性は疑わしいものである。 宮台氏の「田吾作」発言に至っては…

宮台真司「アンチ・リベラル的バックラッシュ現象の背景」

■昔からフランクフルト学派の人たちが言ってきた通りで、権威主義者には弱者が多い。これは統計的に実証できます。私の在職する大学で博士号を取得した田辺俊介君の博士論文『ナショナル・アイデンティティの概念構造の国際比較』(2005)が、ISSP(国際…

『交響詩篇エウレカセブン』

●ネタバレあり 再放送を見終えて今一度整理してみる。 あの終わり方に関して、 やはり色々と意見が出たようだ。 本作の脚本家は意図を理解されなかった、 と聞き苦しい弁明をあちこちで述べているようだが、 実際理解されたとてそれが果たして 本当に良いと…

『国家の品格』の書評

小生はブログ中毒ではないので、 連日のアップに少々疲れてしまった。 今日は断章取義で楽をさせてもらいたい。 『国家の品格』を批判的な書評の内、 秀逸な物をいくつか紹介する。 興味深い意見も多く、 言及しながら批評する事も考えたが、 どうにもスタン…

藤原正彦『国家の品格』

前2本のエントリで大体、言いたい事は述べたので、 今日は補遺、補足的な内容を。 まず、前日のエントリは長文引用で筆を置いたので、 何かしら意見を挟んで置かないと収まりが悪そうだ。 第一の引用部は、 藤原正彦氏の根本的な思想課題の 認識不足に対す…

藤原正彦『国家の品格』

『国家の品格』を良書だと思った人々に対して、 どのように話せば分かって貰えるだろうか、 どれくらい言を尽くせば納得していただけるであろうか。 細かい誤りを指摘したとしても、 多くの人は見向きもしないでしょう。 何故なら彼らが受け入れたのは、 元…

藤原正彦『国家の品格』

藤原正彦氏の著作『国家の品格』がいまだに売れている。 批判するには時機を逸した感が拭えないが、 この際だから色々とまとめておこうと思う。 とりあえず本日は内容を含む、 基本的な誤りの批判。 本書の問題は偏りがあるだとか、右寄りだとか、 感情論だ…

『Wikipedia』

ウィキペディアが本と言えるかどうかは不明だが、 ウィキペディアをレビューしてみる。 ネットの百科事典ウィキペディアは 実に便利で面白い読み物である。 トリヴィアルに面白いので、 毎日のように意味も無く調べ物をしたり、 新着記事のチェックに余念が…

乙一「愛すべき猿の日記」

出版されてから随分と時間が経ってしまいましたが、 『パピルス』創刊号に掲載された、 乙一著「愛すべき猿の日記」のレビュー。 なお、かなりネタバレを含みますので、 未読の方は読まないほうがいいと思います。 所詮、素人書評、批評に過ぎませんので。 …

永井荷風「妾宅」

近代化とはヨーロッパの強制の結果であり、 前近代の眠りを覚ましたのは黒船であった。 仮に黒船が来なかったのならば、 いまだに江戸時代が続いていても不思議ではない。 それほど「近代」という時代や精神は「特殊」な物なのである。 「普遍」や歴史法則と…

断腸亭主人

永井荷風という人は 反時代、反社会的に生きながら、 その事に自覚的な人なので、 その文章は実のところ、「情」より「理」が勝っている。 「理」の世界から逃避して、 「情」の世界に埋没しなかった人、 それが「近代人」荷風なのだと思う。 この辺が欧化主…

種死考

主題性は言うまでも無く重要である。 それは明確に言葉で表されていなくても、 製作者は明確に意識していなければならない。 それは物語を通じて示されるものもあれば、 物語によって解き明かされるものもある。 主題は物語を媒介として掲示される以上、 物…

『ゴジラ FINAL WARS』

我輩は映画は好きだが、 もっぱらTVとビデオでばかり見ている。 映画館に積極的に通う 気力も無いし、財力も無い。 そういうわけで、 幼少の頃に見ていた『ゴジラ』が シリーズ最終を迎えた事も最近知った。 正確に言えば、地上波でTV放映されて気が付いた…