国家とその擁護のための予備的諸考察(3)

●前書 本論及び三編の考察は、先の二編に比べると抽象的な考察ではなく、具体的な事柄や言説に色々と言及するために、最初にどういったことに触れるのかまとめておく。本論「統合と主権」ではヨーロッパにおける中央集権化の歴史を概説し、近代国家が齎した…

国家とその擁護のための予備的諸考察(2)

●モラルなき時代 オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』は大衆社会論の嚆矢とか、自然的貴族の議論ばかりが注目されがちである。甚だしきは彼の「自然的貴族」と「大衆人」の対比から、大衆人への一方的断罪という字面をなぞっただけの解釈すら為される。…

国家とその擁護のための予備的諸考察(1)

●思想と空間 そもそも「思想」とは一体何であろうか。我々がもし懐疑主義を取るのであれば、思想とは何であるかについて、まず考え始めなければならないだろう。我々はよく思想に関して、見取り図の様にリストを作成してみたり、対立軸を設けて分類してみた…

あんパンなんていらない。(Ver.Unteazated)

別館の方で宮台真司氏が赤木論文に寄せた コメントをあまりに凡庸過ぎると評した所、 このようなトラックバックを頂いた。 http://d.hatena.ne.jp/kuriyamakouji/20071113/p1 ここで展開されている論争や立場への不信感が、 『Something Orange』というブロ…

「決断主義」なるものの再検討(5)

◎追記 思いのほか長文になってしまったので、 読み易いように二種類の小見出しを使い、 小題を目次風に記しておく。 ◎前書――「傷口に劇薬を。」 ◎現代における精神の様相 ●「Anti-intellectualism」 ●「教養」の困難さ ●「文化」と「様式」 ◎「倫理」の意味…

「決断主義」なるものの再検討(4)

本当は『コードギアス 反逆のルルーシュ』を 『ハムレット』を引き合いに批評の遡上にあげるつもりだったのだが、 まだ完結していない作品を論じるのは気が引けるので、 少しだけ触れてお茶を濁したい。 まず、『コードギアス』の作り手たちが 『デスノート…

「決断主義」なるものの再検討(3)

●夜神月――空虚にして凡庸なる「大衆人」 宇野常寛氏の「ゼロ年代の想像力」において 夜神月は「決断主義」的主人公に分類されている。 それでは、彼は何を決断したのであろうか。 「決断」などと評されるからには、 何かしらの目標や動機があってもよさそう…

「決断主義」なるものの再検討(2)

●精神思想の日本“近代化”史 我が国は二度の近代化を経験した。 一つは明治維新、いま一つは敗戦と復興である。 そして、その両方ともが、 強制と移植によって近代化を達成している。 「近代」が生み出しそれを支えてきた諸概念 ――自由主義、個人主義、資本主…

「決断主義」なるものの再検討(1)

●前書 実際の話、諸君が大衆に向かっていかに個人の自我実現を教えようとこころみたところで、彼等は万事が語られ行われたのちにも、所詮は断片的な存在にすぎず、到底全き個人たることはできぬのであるから、畢竟、諸君のなしうることは、彼等を実に嫉妬深…

「セカイ系」と「逃避」の本質

●現代の迷信 迷信の時代とは知っている以上のことを 知っていると人々が想像する時代なのです F・A・ハイエク 『自然・人類・文明』 素敵です、と言われても何だか返事に困るが、 先日の覚書が「セカイ系」を中心に読まれているようなので、 今日は「セカイ…

「ゼロ年代の想像力」に寄せて

今日の著作家は長い間研究してきたテーマについて書こうとペンをとる際に、次のようなことを念頭に置いておくべきである。つまり、そうした問題について一度も考えたことのない普通の読者がたとえ彼の著作を読むにしても、それは彼から何か学ぼうとするため…

「パッチギ!」(04年/日本)

この映画に対する評価は難しい。 いくつかの欠点と事実と異なる描写が含まれているためだ。 それはまず「イムジン河」が発禁されたというくだりである。 「イムジン河」が販売自粛及び廃盤になったのは 朝鮮総連の抗議によるところが大きい。 最後の方の場面…

「私の頭の中の消しゴム」(04年/韓国)

若くしてアルツハイマーになり、次第に全てを忘れていくヒロインと 主人公との間の悲劇を描いた話が本作である。 前半部はラテン系の音楽をBGMにしたラブコメ風で、 後半部はうってかわってシリアスなお話になるのだが、 この記憶をめぐる描写がどこまで…

「最期の同窓会」(93年/日本)

このドラマは過去を振り返ることで、あるいは顧みることで、 現在を見つめなおそうとするドラマである。 同時にこのドラマは過去を克服しようとする。 ヒロインは6年前に離婚して母子家庭にあるが、 彼女は今もってそれを清算出来ていない。 彼女にとっては…

田中明彦『新しい中世』

先日行われたフランス大統領選挙は大方の予想通り、 右派で元内相のサルコジ氏が当選し組閣も無事行われた。 冷戦が終わってもう随分と経つが、 ようやく冷戦後の世界の在り方というものが見えて来つつあるのではないか。 ある種の固定観念を取り払って素直…

読売新聞「『飛び入学』人気なし」

●「飛び入学」人気なし、10年で72人だけ…拡大見送り 4月11日16時13分配信 読売新聞 優秀な高校2年生に大学の入学資格を認める 「飛び入学制度」による入学者数が伸び悩んでいる。 今春の入学者は10人で、 制度開始から10年たった現在までの累計でも…

福田恒存 D・H・ロレンス『黙示録論』

我輩はこの頃一つの命題に引きつけられている。 それは「誠実」という名の呪縛についてだ。 今日のネットの正義漢をなどもそうだが、 彼らは誠実さに突き動かされ、 他者を誠実さで突き立てるのだ。 ところが彼ら自身その誠実さの奴隷となっている事に気が付…

プロパガンダについての短い覚書

芸術や娯楽、それらはプロパガンダの歴史と密接である。 特に映画に限ってみれば下記のような歴史を辿っている。 レビュー映画(米) ↓ ナチスのプロパガンダ(独) ↓ ソビエトの映画 ↓ 北朝鮮の映画 レビュー映画というのは、 アメリカのニューディール体制…

宮台真司「試される憲法」

以前、我輩は所説の疑問としてエントリにまとめたが、 今回は明瞭に批判である事を明記しておきたい。 昨今の彼の言動は目にあまるからである。 しかも、性質の悪い事にそれを支持している人も少なくないようだ。 「迷信の時代は、知っている以上のことを 知…

NHKスペシャル「日本国憲法 誕生」

なかなか良く出来たドキュメンタリー作品であった。 何だかんだ言っても見れる水準のドキュメンタリーを 作れるのもNHKぐらいなのであろう。 この「日本国憲法 誕生」はおそらく 教育テレビの方で今年の2月10日に放送していた ETV特集「焼け跡から…

mixiにおける(擬似)社会の観察

昨年はソーシャル・ネットワーキング・サービス(略称SNS)の「mixi(ミクシィ)」を巡るニュースや事件が相次いだ。それらの多くは世情を騒がすような大ニュースではなかったのだが、世人の大きな関心を買ったと言う意味では重大であった。一種のネズミ…

現代民主主義の理論家たち

近年、パットナムによる「ソーシャル・キャピタル」概念の提唱によって、トックヴィルが『アメリカの民主政治』で賛美した共同体の価値が見直されつつある。また、ポーコックによって古典的共和主義思想の見直しと共に、マキアヴェッリなどの共同体主義的な…

東京都美術館「オルセー美術館展」

東京都美術館でオルセーの企画展があるというので行って来た。 国立西洋美術館と比べると少々手狭で 分かり難いところにある東京都美術館であるが、 昼時前だと言うのに多くの客が詰め掛けていて辟易させられた。 日本では何故か印象派の絵画は受けが良い。 …

岩波文庫80周年

我ながら大仰なタイトルだが、 半分冗談、半分本気。 まあ、気軽に流し読みして欲しい。 我輩も読書の合間のストレッチ程度に書いている。 さて、岩波文庫が80周年とやらで 創刊時のラインナップを復刊していたのだが、 あんなもの文献学者的好事家以外に…

宮台真司氏の所説の疑問:補遺

宮台真司説にせよ、丸山真男説にせよ、 「亜インテリ論」は妥当かと問われれば、 我輩は“否”と答えざるを得ない。 そもそもインテリゲンツィア、知識階級と呼ばれるものすら、 抽象過ぎてその実体性は疑わしいものである。 宮台氏の「田吾作」発言に至っては…

思想風景

普段何気なく暮らしていると、 ふと周囲を見回せば、 風景が一変している事に気が付き、 大変驚かされる事がある。 同様に思想風景というものも、 一種の流行なようなものであるから、 やはり気が付くと原風景を 留めていない時がある。 元より原風景などな…

宮台真司「アンチ・リベラル的バックラッシュ現象の背景」

■昔からフランクフルト学派の人たちが言ってきた通りで、権威主義者には弱者が多い。これは統計的に実証できます。私の在職する大学で博士号を取得した田辺俊介君の博士論文『ナショナル・アイデンティティの概念構造の国際比較』(2005)が、ISSP(国際…

NHK『日本の、これから』

NHKの特番の『日本の、これから』を見た。 案の定、たいして面白くなかった。 以前からNHKは視聴者参加型の 番組の試みを続けてきていたが、 例の不祥事の後、 とみにこのタイプの番組を重視するようになった。 その姿勢の低さには見ていて痛ましさす…

永井荷風「十九の秋」、「妾宅」

当時わたくしは若い美貌の支那人が、辮髪の先に長い総のついた絹糸を編み込んで、歩くたびにその総の先が繻子の靴の真白な踵に触れて動くようにしているのを見て、いかにも優美繊巧なる風俗だと思った。はでな織模様のある緞子の長衣の上に、更にはでな色の…

朝日新聞社説「開戦65年 狂気が国を滅ぼした」

8月は一年で最も重苦しいようで、 実の所、最も浮ついた時期なのではないかと思う。 誰も彼もがこの時期になると、 あの戦争の事を思い馳せる様になるらしい。 陰惨な悲劇も年月を経ることで、 ただの年中法事と大差が無い様になった。 キリスト教徒でもな…