少子化問題

近年、大きく“問題”として
取り上げられているのが「少子化」である。
国力及び経済拡張の観点から見た場合、
それは確かに大きな“問題”である。
経済的には市場規模が縮小されるわけだし、
国力的にも昔から言われるように、
人口とは国力なのであり、
若年層の減少は国力衰退を意味するだろう。


だが、個人、あるいはミクロの観点から見た場合、
それは不利益だけではない。
むしろ、人口減少が大きく利益になった例がある。
それは欧州において起こった黒死病、ペストの大流行である。


ペストの大流行によって、
少ない地域でも人口の6分の1、
多い地域になると3分の1から2分の1が、
ペストによって死亡したと言われる。
このころの平民、庶民の暮らし振りは
どうであったかというと、
実は良かったのである。


14世紀から16世紀にかけて、
非常に裕福な人々だけではなく、
庶民も牛、豚、魚などを日常的に食べていた。
というのも、黒死病の直後で労働力が手薄になったため、
働く者にとっては生活条件が良好であったからだ。
加えて、人口減少のため、
家畜の数が相対的に増加したためである。*1


このことから、人口が減少した場合、
利用しうる資源の量が変わらなければ、
相対的には豊かになるのである。
また、土地などは増加するにしても、
非常に限られているわけだから、
人口増加の影響を最も受ける。
我が国の高度経済成長の中で、
一貫して悪化したのも住環境である。


“生活水準は、つねに住人の数と
 彼らが利用しうる資源との関係によって決まる”
というフェルナン・ブローデルのテーゼは今日でも生きている。


このように個人のレベルから見れば、
少子化」とは必ずしもアンハッピーなものではない。
だが、確かに労働力は減少するわけだし、
我が国の福祉政策は一貫して、
成長しつづける経済をもとにつくられているので、
綻び、最悪の場合には崩壊は避けられないだろう。


だが、労働力の減少に関しては、
技術革新がそれを補う可能性があり、
また、福祉政策も抜本的な変更、改良を
行われなければならないように追い込まれるだろう。
あるいは単に切り捨てるかもしれない。
現に安い賃金で働かせられる外国人労働者
研修などといった形で半ば不法な就労をさせている。
これは二次産業だけでなく、
一次産業である農業分野にも顕著に現われ始めており、
(特に都市近郊の農家に多い)
安直で刹那的な享楽を欲した者は
必ずや手痛いしっぺ返しを食らうだろう。


おそらく、今後、発生するであろうものは“階級”である。
労働減少に比例して、
下層の労働に携わる移民を受け入れない限り、
下層の労働に国民が携わざるを得ないわけであるから、
結果として起こるのは総中流神話の完全な崩壊である。
意識の面においても、実体の面においても、
貧富の差は拡大するであろう。


そして、下層民候補として一番可能性が高いのは、
フリーターと呼ばれる若年層であろう。
彼らの多くは、単純作業労働の経験しかなく、
その経験が長ければ長いほど、
そこから脱するのは困難になっている。
また、パートタイマーの数自体は、
年々増加しているのであるから、
労働環境も悪化せざるを得ないであろう。


移民政策を受け入れれば、
マイノリティーが発生、増大し、
国民国家の危機が起こるであろう。
受け入れなければ、
同質集団内での格差の拡大が起こるだろう。
いずれにせよ、正規雇用者以外の未来は暗いと言わざるを得ない。


今、我々は大きな階層変動の中にいる。
それがどのようになるかは分からない。
しかし、その変化が、その淘汰の大海嘯が、
非常に大きいことは間違いないだろう。

*1:参照:F・ブローデル『物質文明・経済・資本主義 日常性の構造』